宿は温かく、夜は部屋の暖房を切っても布団を被っていれば寒いことはなかった。朝起きて窓から外を見ると、天気はくもりで雪がちらついている。昨夜からの積雪は2-3センチところだ。予報では昨日雨を降らせた低気圧が東に抜けて、西高東低の気圧配置になるということだった。比較的太平洋側に近い気候を示すこのエリアでは、そこそこの好天が期待できそうだ。
(Photo by MT)
二日目、いよいよ山奥へ入っていく。荷が重く、明日はテン泊なので、朝食はしっかりいただく。お昼のお弁当(おにぎり)を作ってもらって、9時前に出発となった。看板犬の柴犬が見送りにきてくれた。
(Photo by MT)
登山道は宿の敷地内を通り、裏手から橋を渡って沢沿いの道を歩く。積雪は十分だが、鬼門となりそうなのが、沢から鬼怒沼の平坦地に登り上げる急斜面だ。果たしてシールで歩けるのか。ツボ足を覚悟して臨んだ。
少し歩くと、比較的新しいデブリがあった。昨日までの雨で発生したものだろうか?当たったらただでは済まないサイズだ。この先もずっと急斜面を横切ることになるので、慎重に進む。気温はまだ高く、雪は程よく沈んだ。先行パーティのものと思われるツボ足トレースは、あちこち踏み抜いて苦労しているようだった。
ヒナタオソロシの滝展望台への道との分岐から、いよいよ川を離れ、鬼怒沼への登りが始まった。最初はそれほど急ではなく、どちらかというと滑走向きの樹間の開いた森だった。この分ならあちこちでスキーを楽しめそうじゃないかと思ったが、結局鬼怒沼までで滑れそうなのはここだけで、あとは急すぎるか密林すぎるかのどちらかだった。束の間の疎林が終わると、あとは登山道を辿っていくしかなかった。途中で先行パーティに追いつき、追い越す。案の定、ツボ足では歩きにくそうだった。スキーのトレースでは物足りないかもしれないが、少しはお役に立てただろうか。
登山道は急斜面に水平につけられているので、山の細かい襞を拾いながら走っている。小さな沢を越える場所は下まで落ちているので、通過するときにはさすがに緊張感があった。いよいよプラトーが近づいてくると、背後に根名草山と大嵐山が大きく見えた。青空も広がり、今日はこのあたりは太平洋側気候ということらしかった。
春の力強い日差しのお陰で、雪のスクリーンに投影される木漏れ日が美しく映えた。混成林だからこそ出せる複雑な模様を楽しみながらのんびり歩く。急登も終わり、あとは太陽を背に適当に歩けば、いずれは湿原のどこかに出るはずだ。
森林と湿原の境界はとてもはっきりしていた。文字通り、湿原に飛び出したという感じだろうか。ほぼ山頂部にある湿原とあって、解放感はとても高い。背後にそびえる日光白根山の存在感が大きい。まずは幕営地を決めたいが、そのために湿原の反対側まで行って状況を確かめることにした。
湿原はほぼ平坦だが、北に行くにつれて南会津の山々がよく見えるようになった。あちらは今日は日本海側気候のようで、山頂部は雪雲に覆われている。湿原北側の端にある避難小屋(鬼怒沼巡視小屋)は深い雪に覆われ、入口を掘り出すのは相当苦労しそうだった。湿原の北側は冷たい風が吹いていた。湿原は東西にある小さなピークに挟まれるような形で南北に延びている。そのため、北側に寄りすぎると北寄りの風が入ってくるのだ。
(Photo by MT)
(Photo by MT)
幕営地は冷たい風を防いだ上で、日光白根山がよく見える場所に決めた。雪ならしをしているとMT氏も到着したので、設営を手伝ってもらった。今回はファイントラックのフロアレスシェルター、ポットラックを用意した。4~5人用というが、荷物の多い冬山で快適に過ごすのであれば2人がいいとこだろう。
フロアレスシェルターということで、寝袋の下に引くマットが重要だが、こちらは山と道のUL Pad15s+で正解だった。これにモンベルのダウン#2にモンベルの上下ダウンインナーで-15℃でも問題なく過ごせた。
テントを設営し終わると、二人とも何だかガツガツ活動する気にもなれず、テントでのんびりと過ごした。極寒の夜になるのはわかっていたので、食事を早めに摂った。
月齢27日、街の光も遠く、風も弱く、漆黒の静かな夜だった。
(つづく)