中国地方の山岳地帯に鉄道の駅前に広がるスキー場がある。そう聞いたのがこの旅の始まりだった。駅前スキー場という響きは、当然ながら鉄道を使ったスキー旅を連想させ、旅の創作意欲を掻き立てた。スキー場の名前は三井野原スキー場といい、島根県と広島県の県境にある。早速調べてみると、JR木次線の三井野原駅前に、奥出雲町が運営するスキー場と地元の旅館が所有するロープトゥが複数存在するとのことだった。

そして夢はさらに膨らむ。三井野原からほど近い県境には比婆連山があり、周囲にブナの純林が広がっている。都合の良いことに山中には避難小屋もあり、広島県側にはひろしま県民の森スキー場があるのだ。つまり三井野原スキー場で滑った後は、ブナの山でスキーをして山中に泊まり、そして山の反対側に降りる計画が成り立つ。

加えて、三井野原へのアプローチに寝台特急サンライズ出雲が使えることも忘れてはならない。今や気軽に使える唯一の寝台列車だ。これをほぼ終点まで、スマートに旅程に組み込めるのだ。計画は以下の通りだ。

1日目:前夜にサンライズ出雲に乗車、宍道で木次線に乗り換え三井野原へ。三井野原スキー場を滑って、旅館泊。

2日目:三井野原~県境尾根~毛無山~烏帽子山~大膳原避難小屋泊。

3日目:大膳原避難小屋~烏帽子山~比婆山~ひろしま県民の森スキー場へ。備後落合駅から新見、岡山から新幹線。

ところが、この計画には大きな問題があった。中国地方屈指の閑散路線である木次線だ。木次線は一定以上の積雪があると出雲横田~備後落合の運転を長期にわたって取りやめてしまうのだ。バスによる代替輸送は存在するのだが、それでは駅前スキー場へ鉄道で行くという楽しみが失われてしまう。一方で、雪が無ければスキー場は営業できないというジレンマを抱えており、タイミングが難しいのだ。

事実、毎年のようにタイミングを逃し続けた。温暖化の影響か、昨今の降雪傾向として、全く積雪のない状態から1m近くドカ雪が降るパターンが多く、一気に長期運休に追い込まれるケースが目立った。このまま計画を実行できないまま廃線になってしまうのではないか、そんな心配もチラつくようになっていた。

しかし計画から5年、チャンスは突然訪れた。2019年の年始にかけての寒波が落ち着いた頃、ふと調べてみると小雪ながら全ての条件が整っているではないか。あいにく旅先であったが、こういう時は頭が冴えるもので、細かな行程の詰めや列車の予約など、すぐさま準備に取り掛かった。もう少し積雪が増えるのを待つか悩んだが、直感を信じた。あまり深く考えすぎないほうがいい。

そした2019年1月10日の夜、横浜駅から旅は始まった。

(つづく)

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